商品説明
<新刊書>嶋本隆光・著/京都大学学術出版会/2023年12月27日初版1刷/四六判/271頁
表題は「猫一疋の力に憑て大富と成し人の話」という熊楠の論考から付けたとされる。
著者はイスラームの研究者であり、この話がイスラームと深く関わっていたために、熊楠についてはじめて考証した論考だったと述べている。そしてこの論考が、熊楠の良いところと、悪いところをハッキリ示しているとも。
熊楠の研究者では無いが、宗教・イスラームの専門家として、ロンドン時代の熊楠の宗教観、知識量や正確さを、肥大した熊楠像から離れてフラットに評価しているので、かなり実像に近づいているように思う。
資料としては、長く交流のあった真言宗の高僧・土宜法龍との往復書簡を中心に、熊楠が何を集め、どう考え、どう比較したのか、しなかったのか、その論法も含めて考証。当時のイギリスに溢れかえる情報を、熊楠がきちんと考証せずに鵜呑みにしていたのではないかという疑いも感じながら評価している。
後半は論法、論述の話が多めだが、宗教の専門家からみた熊楠象を知っておくことも、南方熊楠の実像に近寄るために有意義な事と思う。